「・・・・オールグリーン。よし、これでOK!」
瞬く間にキラの手からプログラムが構成され、機体が生き返る。
これからの仕事に参考になるだろうと、キラの周りには数名のメカニックがその様を見ていた。
そのテクニックを盗もうと見学したのはいいが、速さに理解が付いていかず、
最終的にはただただキラの手を眺めるだけになってしまった。
「おーい、お前ら!そいつ見てもどうせ真似できないんだから早く定位置に戻りやがれ!!」
少し離れたところからマードックがにやけながら、キラの周りにいたクルーに声をかける。
慌てて、各自持ち場に戻っていく。その中で、何人かは去り際に「キラ隊長、ありがとうございました!」「ホントお見事でした!」などお礼や賞賛を残していってくれた。
「またぜひ拝見させてください!マードックさんがいないときに^^」なんて言ってくれるクルーたちに笑顔を返す。
そして、「もう!どうせ真似できない、とか言わないで下さい。元の構築と連結スピード、あとウィルスさえ分かってれば出来ることなんですから」という憎まれ口はマードックへ。
可愛らしく頬を膨らませるキラに対し、
「構造や機械を知り尽くしてても、いくつもの工程を同時に、かつめちゃめちゃに繋げて、なおかつバカみたいなスピードで構築できるのはお前だけだっつーの!」
「・・・・それ、褒めてます?」
ガハハハハと笑うマードックに頭を撫でられつつ、ふと聞こえた声に固まる。
「やっぱり【自由の翼】は人じゃねーなぁ・・・・」
小さく息が止まった。
本人も聞かせようとしたわけではないのだろう。それくらいの音量だった、と思う。
その証拠に目の前にいるマードックはまだ笑ったままだ。
戦争が終わり、地球軍・ザフトという括りが必要なくなった。
かつての軍人は、今は自衛隊のような形で種族を問わず、同じ軍に所属している。
今いるこの地域も例外ではない。それゆえにナチュラルもいれば、コーディネーターもいる。
それゆえの衝突や慣れない部分はあるが、どうしようもないほどの問題はまだ起こっていない。
もう少しすれば、きっと共に歩める存在だとお互いに分かるだろう。
だが、今の言葉は【コーディネーター】全般に、ではなく、キラ個人に対しての言葉だ。
【自由の翼】
それはフリーダムを見た人がつけた呼称で、つまりは乗り手のキラを指す言葉だ。
オーブにいた頃も地球軍にいた頃も、コーディネーターの高い能力に畏怖を感じ、嫌われたり、
差別されたりした。
それでも多少は、仕方ない、とも思っていた。
実際にさっきキラのプログラミングを見てたクルーの中にも、なにか別のものを見る眼でいる者がいるのも本当は知ってる。
だが、自分の出生を知り、人ながら人でない生まれという事実は、慣れ始めていた差別を今まで以上に敏感にした。
きっと【コーディネーター】ということに対しての言葉だろうと分かっていても、名指しさせると自分の出生を責められているようで、落ち着かなくなる。
僕の出生なんて、一部の人以外で知るはずがないのに、ね。
「ん?なんか言ったか坊主?」
呟きは声に洩れていたらしい。
とっさにつけ慣れた笑顔の仮面をつける。
「何でもないです。マードックさんがいじめるので、そろそろ隊に戻りますね」
嘘。
隊に戻る道とは別な道を選ぶ。
とりあえず無性に彼に会いたかった。
弱いと、情けないと、
分かってはいたが1人での立ち直り方が分からないから。
「どうした?」
ありきたりな言葉なのに、彼が言うと痛みが少し和らぐのはどうしてだろう。
「ううん、何でもないの。ちょっと邪魔しにきただけ」
「はぁ・・・・・茶をいれてやるから。話せ。なんならティッシュも貸してやる」
飾った言葉はないけれど、悟ってくれる。
不器用だが優しいこの人のこんなところに毎回救われる。
「貸してくれる…ってことは、僕、後で返さなきゃいけないのかな?」
「ティッシュくらい安いものだろう。年がら年中、仕事の邪魔しにくるくせに」
と言って、にやりと笑う。
意地の悪い顔さえもかっこいいとか世の中、不公平だ。
「……ジュール隊はケチって言いふらしてやる」
自然と出る軽口。一見近寄りがたい空気なのに、イザークといるといつの間にか自然体になっているから不思議だ。
「どうせ…、また天才とか言われたんだろう?」
お前がそんな顔してるときは大体そうだからな、とため息をつく。
他のヤツが聞いたら、ただの嫌味だぞ。
「…今日は違うもん。【自由の翼】は人じゃないんだって」
はぁー…。
これがみよしにイザークが盛大にため息をつく。
「悩んでる内容としては同じだろうが。出生のことを考え出したんだろうが」
添えつきのテーブルにキラ用のティーカップを置き、ソファで拗ねているキラの両頬をはさみ、強制的に目線をあわせさせる。
「全くお前はそんなことでいちいち悩むな!湿度があがる!」
「湿度・・・・」
湿度を気にするとかストパーなのだろうか、このキレイにそろった銀髪は。
だとしたら、なんかショックだ。
「天才」だ?「人じゃない」?そんなもの大昔の負け犬が作った言葉だろうが。あいつは特別だからしかたない、ってな。」
きっと今、すごく間抜けな顔をしてる。
これでもかってくらいにイザークを見つめてしまう。
「生まれは望んでないかもしれんが、世界を変えたいと思ったのはお前自身で、それに能力は関係ないだろう。そして、そのために努力してるのはお前だろう。能力があっても宝の持ち腐れにしてるヤツらを俺はたくさん見てきてる。」
イザークがすごいな、ってこういうときに思える。
こうやって毎回来ちゃうのも、きっとこのせい。いつだってまっすぐで、揺るがない。
「お前は能力を『生かす努力』をしてるだろうが。それを出生が理由みたく言うな!努力してつかんだ結果を、居場所を!お前の場合はもう少し誇れ!この馬鹿がっ!」
自然とこぼれる微笑。
思わず声をあげて、笑ってしまう。
「きさまっ、ここは笑うとこじゃ・・・」
「だってすっごい長台詞なのに、イザーク全然噛まないんだもん。尊敬を通り越して、
つい笑っちゃった」
ごめんごめん、となだめつつ、「でも、ありがとう」と付け加える。
君に今、どれだけ救われたか。
言葉にしても恥ずかしいし、きっと伝えきれないから。ずるいけど、素直に返さない。
「よし!元気でたから、僕があっまーいもの準備してあげるね!」
こんな僕をどう思ったかは分からないが、ためいきをつくイザーク。
準備もなにも、元々ここの部屋の茶菓子だろうが…、なんて後ろから聞こえるボヤキはスルーする。
「あ、イザーク!!明日はチョコケーキ食べたいから準備しといて!」
「その前に貴様は来るなっ!」と即、切り捨てられる。
けど、明日も僕はここに来ちゃって、冷蔵庫に入ったチョコケーキを見つけるんだろう。
このあったかい気持ちをなんていうか分からないけど。
PR